大阪地方裁判所 平成3年(行ウ)49号 判決 1993年6月24日
大阪市中央区高麗橋二丁目三番一二号
原告
大和地建株式会社
右代表者代表取締役
辻井巌
右訴訟代理人弁護士
井上克己
右訴訟復代理人弁護士
藤沢正弘
大阪市中央区大手前一丁目五番六三号
被告
東税務署長 近藤勇
右指定代理人
島田睦史
同
竹田優
同
池上佳秀
同
前田登
同
山田弘一
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は、原告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
被告が原告の昭和六二年四月一日から昭和六三年三月三一日までの事業年度の法人税について平成元年一月一二日付けでした再更正(ただし、平成元年七月三一日付けの再々更正により減額された後の部分)のうち所得金額七〇九六万円八五九二円を超える部分並びに昭和六三年一一月一二日付け及び平成元年一月一二日付けでした重加算税及び過少申告加算税賦課決定(ただし、平成元年七月三一日付けの重加算税及び過少申告加算税賦課決定により減額された後の部分)のうち所得金額七〇九六万八五九二円を超える部分に対応する部分を取り消す。
第二事案の概要
一 本件の課税の経緯等(争いがない事実)
原告は、昭和六二年四月一日から昭和六三年三月三一日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税について、別紙5の「確定申告」欄記載のとおりの内容の確定申告をしたところ(別紙1参照)、被告は、昭和六三年一一月一二日付けで、別紙5の「更正処分等」欄記載のとおりの内容の更正並びに重加算税及び過少申告加算税賦課決定の各処分を、平成元年一月一二日付けで、別紙5の「再更正処分等」欄記載のとおりの内容の再更正並びに重加算税及び過少申告加算税賦課決定の各処分を、平成元年七月三一日付けで、別紙5の「再々更正処分等」欄記載のとおりの内容の再々更正並びに重加算税及び過少申告加算税賦課決定の各処分をした。原告は、別紙5記載のとおり異議申立て及び審査請求をしたが、いずれも棄却された。
二 被告は、右一の各更正及び重加算税及び過少申告加算税賦課決定の各処分の根拠について、次のとおり主張する。
(所得金額及び税額)
1 売上金額 一五億八三七一万円
(一) 原告は、確定した決算において、売上金額六億九二一一万円を次のとおり計上していた。
(1) 京都市右京区鳴滝音戸山六番三の物件(以下「右京区の物件」という。)の売上金額(売上先・株式会社菱和リビング) 一億円
(2) 大阪市西区北堀江一丁目四〇番一の物件(以下「西区の物件」という。)の売上金額(売上先・株式会社サンホーム) 五億九二一一万円
(二) これに対し、被告は、原告が本件事業年度の所得の金額の計算上、総額八億九一六〇万円の売上金額を益金の額に算入していなかったため、別紙2-1<2>の記載のとおり所得金額に加算した。その内訳は以下のとおりである。
(1) 原告は、右京区の物件を昭和六三年二月九日に宗教法人光明山久宝寺(以下「久宝寺」という。)へ一億二〇〇〇万円で売却したが、この金額全額を原告の本件事業年度における売上金額から除外していたので、被告は、これを益金の額に算入した。
(2) 原告は、大阪市浪速区蔵前町一四四二番一一ほか一筆の土地「以下「浪速区の物件」という。)を昭和六二年七月一四日にたかしよう株式会社へ五億七一六〇万円で売却したが、この金額全額を原告の本件事業年度における売上金額から除外していたので、被告は、これを益金の額に算入した。
(3) 原告は、大阪市東区京橋一丁目三番七(現在の表示大阪市中央区京橋一丁目三番七)の土地及び同所の建物(木造亜鉛メッキ鋼板葺二階建倉庫三一・〇六平方メートル)(以下、単に「東区の物件」という。)を昭和六二年四月三日に第一興業株式会社に対して三億円で売却し、この金額全額を原告の本件事業年度の仮受金勘定に計上していたが、同物件は本件事業年度中に引き渡したものであることから、被告は、これを益金の額に算入した。
(4) 原告は、右京区の物件を昭和六一年一二月三〇日に株式会社菱和リビングへ一億円で売却したにもかかわらず、この金額全額を原告の本件事業年度における売上金額として計上していたため、被告は、前記において計上すべきものであることから、これを益金の額から減算した。
2 受取利息 八七万一七七四円
(一) 原告は、確定した決算において、原告代表者辻井巌に対する一億円の貸付金があるとして、右貸付金に対する受取利息一五〇万円を本件事業年度に計上していた。
(二) これに対して、被告は原告が本件事業年度の所得の金額の計算上、受取利息六二万八二二六円を架空計上して益金に算入していたため、別紙2-1<4>記載のとおり所得金額から減算した。その内訳は以下のとおりである。
(1) 原告は、辻井巌個人からの受取利息一五〇万円を本件事業年度の益金の額に算入していたが、同受取利息は架空の計上であったため、被告は、この金額全額を益金の額から減算した。
(2) 原告は、昭和六一年三月二五日に朝銀大阪信用組合本部から借り入れた二億六七〇〇万円のうち、三〇〇〇万円が原告名義の定期預金として、同日、同本部に預け入れしていたにもかかわらず、同預金の受取利息八七万一七七四万円を本件事業年度の益金の額に算入していなかったため、被告は、この金額全額を益金の額に算入した。
3 仕入金額 一一億六七六四万六三六五円
(一) 原告は、確定した決算において、仕入金額五億八九四五万円を次のとおり計上していた。
(1) 右京区の物件の仕入金額(仕入先・田口利治ほか一名) 七〇〇〇万円
(2) 西区の物件の仕入金額(仕入先・高杉開発株式会社) 五億一九四五万円
(二) これに対し、被告は、原告が本件事業年度の所得金額の計算上、総額五億七八一九万円六三六五円の仕入金額を損金の額に算入していなかったため、別紙2-1<5>記載のとおり所得金額から減算した。その内訳は以下のとおりである。
(1) 原告は、右京区の物件を昭和六二年八月一二日に株式会社菱和リビングから一億円で買い戻したが、この金額全額を原告の本件事業年度の仕入金額から除外していたので、被告は、これを損害の額に算入した。
(2) 原告は、浪速区の物件を昭和六二年七月一四日に有限会社たつみから四億七一六五万八三六五円(ただし、諸費用八万八三六五円を含んだ金額である。)で取得したが、この金額全額を原告の本件事業年度の仕入金額から除外していたので、被告は、これを損害の額に算入した。
(3) 原告は、東区の物件を昭和六一年三月二五日に一田安子及び一田久作から取得するのに伴い支払ったとする八一〇〇万円(取得価額及び経費等)全額を原告の本件事業年度における土地勘定として計上していたが、同物件は本件事業年度中に売却されたものであることから、被告は、このうち過大計上されていた金額(四四六万二〇〇〇円)を除いた後の七六五三万八〇〇〇円を損金の額に算入した。
(4) 原告は、右京区の物件を昭和六一年一二月二日に田口利治ほか一名から七〇〇〇万円で取得し、この金額全額を原告の本件事業年度において仕入金額に計上していたが、同物件は前期において計上されるべきものであるからことから、これを損金の額から減算した。
4 支払手数料 一億六〇九六万二四〇〇円
(一) 原告は、確定した決算において、別紙3記載のとおりの支払手数料八四四三万円を計上していた。
(二) これに対し、被告は、原告が本件事業年度の所得の金額の計算上、総額七六五三万二四〇〇円の支払手数料の金額を損金の額に算入していなかったため、別紙2-1<6>記載のとおり所得金額から減算した。
その内訳は以下のとおりである。
(1) 原告が、右京区の物件を久宝寺へ売却するのに伴い、有限会社泰斗地所に支払った七〇〇万円の手数料は、本件事業年度の取引に係るものであり、被告は、この金額全額を損金の額に算入した。
(2) 原告が、浪速区の物件をたかしよう株式会社へ売却するのに伴い、株式会社中建に二八〇万円、株式会社小田政治経済研究所に三五〇〇万円、中井哲夫に一五〇〇万円をそれぞれ支払った合計五二八〇万円の手数料は、本件事業年度の取引に係るものであり、被告は、この金額全額を損金の額に算入した。
(3) 原告が、北野寿に六〇万円、松本喜代三に四〇万円、中村稔に六一〇万九二〇〇円、株式会社エイコーに三〇〇万円、阪神土地株式会社に三〇〇万円、丸楠建築設計に一三〇万七六〇〇円、岡村勲に四〇〇万円、吉井千賀子に二〇〇万円、吉井薫に二八五万円をそれぞれ支払った合計二三二六万六八〇〇円の手数料は、本件事業年度以前のもの及び借入金の返済額を仮装して計上されていたものであるため、被告は、この金額全額を損金の額から減算した。
(4) 原告が、東区の物件を第一興業株式会社へ売却するのに伴い、株式会社山富に九〇〇万円、山岡商事株式会社に六〇〇万円、株式会社エイコーに六〇〇万円、出見吉治に一〇〇万円、金本泰男に二〇〇〇万円、中井哲夫に一二〇〇万円をそれぞれ支払った合計五四〇〇万円の手数料は、本件事業年度の取引に係るものであり、被告は、この金額全額を損金の額に算入した。
(5) 原告は、右京区の物件を株式会社菱和リビングへ売却するのに伴い、株式会社菱和リビングに一〇〇〇万円、株式会社小田政治経済研究所に三〇〇万円、中村稔に五〇万〇八〇〇円、赤沢文彦に五〇万円をそれぞれ支払った合計一四〇〇万〇八〇〇円の手数料を原告の本件事業年度における損金の額として計上していたが、同手数料は、前期において計上されるべきものであることから、被告は、これを損金の額から減算した。
5 支払利息 八七五万五五〇五円
(一) 原告は、確定した決算において、支払利息七四〇万円を次のとおり計上していた。
(1) 有限会社甲陽に対する支払利息 五〇〇万円
(2) 三井銀行泉大津支店に対する支払利息 二四〇万円
(二) これに対し、被告は、原告が本件事業年度の所得の金額の計算上、総額一三五万五五〇五円の支払利息の金額を損金の額に算入していなかったため、別紙2-1<7>記載のとおり所得金額から減算した。その内訳は以下のとおりである。
(1) 原告は、三井銀行和泉府中支店(原告の法人税確定申告書の付属書類では、泉大津支店と記載されている。)に対する支払利息二四〇万円を本件事業年度の損金の額に算入していたが、同利息のうち一一三万八〇〇〇円は本件事業年度以前に計上すべきものであることから、被告は、この金額全額を損金の額から減算した。
(2) 原告は、株式会社甲陽に対する支払利息五〇〇万円を本件事業年度の損金の額に算入していたが、同利息は辻井巖個人に関係するものであることから、被告は、この金額全額を損金の額から減算した。
(3) 原告が、昭和六一年三月二五日に朝銀大阪信用組合本部から借り入れた二億六七〇〇万円に対する支払利息七四九万三五〇五円は、本件事業年度に発生したものであり、被告は、この金額全額を損金の額に算入した。
6 雑費 三九七万二七九〇円
(一) 原告は、確定した決算において、雑費三二四万二九〇〇円を次のとおり計上していた。
(1) 右京区の物件(支払先・飯坂司法書士) 二〇〇万円
(2) 右京区の物件(支払先・皇甫司法書士) 二万四〇〇〇円
(3) その他雑費 一二一万八九〇〇円
(二) これに対し、被告は、原告が本件事業年度の所得の金額の計算上、総額七二万九八九〇円の雑費の金額を損金の額に算入していなかったため、別紙2-1<8>記載のとおり所得金額から減算した。その内訳は以下のとおりである。
(1) 原告が、右京区の物件を久宝寺へ売却するのに伴い、藤本司法書士に一三八万八八一〇円、京都府税事務所に九四万六二八〇円、田北司法書士に一万八四〇〇円、収入印紙代に一九万円をそれぞれ支払った合計二五四万三四九〇円の雑費は、本件事業年度の取引に係るものであり、被告は、この金額全額を損金の額に算入した。
(2) 原告が、東区の物件を第一興業株式会社へ売却するのに伴い、古沢芳雄に六万円、真島司法書士に二万六四〇〇円、収入印紙代に一〇万円をそれぞれ支払った合計一八万六四〇〇円の雑費は、本件事業年度の取引に係るものであり。被告は、この金額全額を損金の額に算入した。
(3) 原告は、飯坂司法書士に対する支払二〇〇万円を本件事業年度の損金の額に算入していたが、同支払は前期に計上すべきものであることから、被告はこの金額全額を損金の額から減算した。
7 雑損失 一一七万一六三〇円
原告は、本件事業年度の所得の金額の計算上、一一七万一六三〇円の雑損失の金額を損金の額に算入していなかったため。被告は別紙2-1<9>記載のとおり所得金額から減算した。
すなわち、被告は、原告が本件事業年度の決算において計上していた什器備品一一七万一六三〇円の確認調査を実施したところ、すでに廃棄されていたことから、この金額全額を損金の額に算入した。
8 外注費 三七七万一六〇〇円
原告は、確定した決算において、外注費三七七万一六〇〇円を計上したところ、被告は、本件事業年度の所得の金額の計算上、同額を損金の額に算入した。
9 交際費 三六五万四六五五円
原告は、確定した決算において、交際費三六五万四六五五円を計上していた。
原告は、資本金四八〇〇万円の法人であるため、租税特別措置法(以下「措置法」という。)六二条一項の規定により、右交際費のうち六五万四六五五円が本件事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入されないとして、別紙1記載のとおり、当期欠損の額に加算した。
10 事務用品費 二〇万二〇九〇円
原告は、確定した決算において、事務用品費二〇万二〇九〇円を計上していたところ、被告は、本件事業年度の所得の金額の計算上、同額を損金の額に算入した。
11 交通費 二八五万七一六〇円
原告は、確定した決算において、交通費二八五万円七一六〇円を計上していたところ、被告は、本件事業年度の所得の金額の計算上、同額を損金の額に算入した。
12 会議費 二九万三一二円
原告は、確定した決算において、会議費二九万〇三一二円を計上していたところ、被告は、本件事業年度の所得の金額の計算上、同額を損金の額に算入した。
13 消耗品費 二万〇八六〇円
原告は、確定した決算において、消耗品費二万〇八六〇円を計上していたところ、被告は、本件事業年度の所得の金額の計算上、同額を損金の額に算入した。
14 公租公課 八七万〇八七〇円
原告は、確定した決算において、公租公課八七万〇八七〇円を計上していたところ、被告は、本件事業年度の所得の金額の計算上、同額を損金の額に算入した。
15 新聞図書費 三万八〇〇〇円
原告は、確定した決算において、新聞図書費三万八〇〇〇円を計上していたところ、被告は、本件事業年度の所得の金額の計算上、同額を損金の額に算入した。
16 送金手数料 一六〇〇円
原告は、確定した決算において、送金手数料一六〇〇円を計上していたところ、被告は、本件事業年度の所得の金額の計算上、同額を損金の額に算入した。
17 当期利益金額 二億三〇三六万五九三七円
原告は、確定した決算において、当期損失として二六二万〇〇四七円を計上していたが、被告が調査した結果、前記1ないし16記載のとおりであり、本件事業年の当期利益金額は二億三〇三六万五九三七円となる。
18 交際費等の損金の不算入額 六五万四六五五円
被告は、前記9記載のとおり、本件事業年度の所得の金額の計算上、六五万四六五五円が損金の額に算入されないため、当期利益金額に加算した。
19 所得金額 二億三一〇二万〇五九二円
被告は、前記17の当期利益金額二億三〇三六万五九三七円に前記18の交際費等の損金不算入額六五万四六五五円を加算した結果、原告の課税標準となるべき所得金額は、二億三一〇二万〇五九二円となる。
20 税額
右所得金額に対する税額は、九六〇六万八四〇〇円となる。
(土地重課税)
原告の本件事業年度における土地の譲渡等に係る譲渡利益金額については以下のとおりである(以下、措置法六三条(土地の譲渡等がある場合)及び同法六三条の二(超短期所有土地等に係る土地の譲渡等がある場合)所定の各特別税率を一括して単に「土地重課税」と表記する)。
1 原告は、本件事業年度の確定申告書において、土地重課税の税額が五五五万八六〇〇円であるとして申告した。その算定根拠は次のとおりである。
(一) 右京区の物件に係る課税土地譲渡利益金額 七八〇万三六〇〇円
(1) 土地譲渡等による収益の額 一億円
(2) 右収益に対応する原価の額 七〇〇〇万円
(3) 直接又は間接経費の額 二二一九万六四〇〇円
(4) 土地譲渡利益金額((1)-(2)-(3)) 七八〇万三六〇〇円
(二) 西区の物件に係る課税土地譲渡利益金額 一九九九万〇一五〇円
(1) 土地譲渡等による収益の額 五億九二一一万円
(2) 右収益に対応する原価の額 五億二二四五万円
(3) 直接又は間接経費の額 五二六六万九八五〇円
(4) 土地譲渡利益金額((1)-(2)-(3)) 一六九九万〇一五〇円
なお、原告は、申告書において、西区の物件の土地譲渡利益金額を一九九九万〇一五〇円と記載している。
(三) 措置法六三条適用による税額 五五五万八六〇〇円
原告が申告した土地重課税の税額は、前記(一)及び(二)の課税土地譲渡利益金額の合計額二七七九万三〇〇〇円(一〇〇〇円未満の端数を切り捨てた金額。以下同じ。)に二〇パーセントの税率を乗じた金額五五五万八六〇〇円である。
2 これに対し、被告は原告の土地重課税に係る税額が、以下に述べるとおり四四八九万八九〇〇円であるとして、国税通則法(以下「通則法」という。)二四条及び同法二六条に基づき更正処分をしたものである。
なお、各物件の土地譲渡利益金額の内訳は、別紙4「土地重課税の内訳」に記載のとおりである。
(一) 東区の物件については、別紙4のNo.1に記載のとおり、土地譲渡利益金額は一億六三三七万六八六四円、大阪市西区北堀江の物件については、別紙4のNo.2に記載のとおり、土地譲渡利益金額は一五四四万九五五三円、浪速区の物件については、別紙4のNo.8に記載のとおり、土地譲渡利益金額は四一四四万九三四一円で、これらの物件については、措置法六三条が適用されるため、それぞれの課税土地譲渡利益金額の合計額二億二〇二七万五〇〇〇円に対して、二〇パーセントの税率を乗じた金額四四〇五万五〇〇〇円が土地重課税の税額となる。
(二) 右京区の物件については、別紙4のNo.4に記載のとおり、土地譲渡利益金額は二八一万三三七八円で、右物件については、措置法六三条の二が適用されるため、課税土地譲渡利益金額の合計額二八一万三〇〇〇円に対して、三〇パーセントの税率を乗じた金額八四万三九〇〇円が土地重課税の税額となる。
(三) 以上のとおり、原告の土地重課税の税額は、前記(一)及び(二)の合計額四四八九万八九〇〇円である。
(重加算税及び過少申告加算税の賦課決定)
1 重加算税の賦課決定
(一) 右京区の物件
(1) 原告は、昭和六一年一二月二日に田口利治及び中川一良から取得した右京区の物件を同月三〇日に一旦株式会社菱和リビングに売却後、更に、昭和六二年八月一二日に同会社から一億円で買い戻しているにもかかわらず、右買い戻し代金一億円を辻井巌に対する貸付金として計上して、右買い戻しの事実がなかったように仮装し、公表決算書に計上しなかった。
(2) 原告は買い戻した右京区の物件を昭和六三年二月九日に久宝寺に一億二〇〇〇万円で売却しているにもかかわらず、辻井巌個人の取引であるとして、公表決算書に計上しなかった。
(3) 原告は、買い戻した右京区の物件を売却するのに伴い支払手数料七〇〇万円及び雑費二五四万三四九〇円についても公表決算書に計上せず、また、架空支払利息一一三万八〇〇〇円を計上していた。
(二) 浪速区の物件
原告は、浪速区の物件の売買に関し、本件事業年度の確定した決算に計上せず簿外取引として隠ぺいしていた。
(三) 簿外受取利息八七万一七七四円は公表決算書に計上せず、簿外取引として隠ぺいし、更に、架空支払手数料二三二六万六八〇〇円、架空支払利息五〇〇万円及び架空雑費二〇〇万円は公表決算書に仮装計上されていた。
(四) 以上のとおり、(一)ないし(三)の事実に係る部分の税額に対して被告は重加算税を賦課決定した。
なお、右京区の物件及び浪速区の物件については、土地重課税に係る部分の税額に対しても、被告は重加算税を賦課決定した。
2 過少申告加算税の賦課決定
右1で述べた重加算税の対象になった部分の所得金額については、原告において、通則法六五条《過少申告加算税》四項に規定する正当な理由がある場合に該当しないから、被告は同条一項に基づき過少申告加算税の賦課決定をした。
三 原告は、次のとおり主張する。
なお、右以外の部分については、原告は被告の右二の主張を明らかに争わないので、これを自白したものとみなす。
1 原告は、堺市中百舌鳥町一丁四六番二ほか1筆(仮換地中百舌鳥土地区画整理事業ブロック番号一二-二ほか二筆)の土地(以下「堺の物件」という。)を買い受けることとし、宮崎雅司(以下「宮崎」という。)に買受け処理の一切を委任し、昭和六二年五月一〇日、宮崎に対し、その費用として、五〇〇〇万円を支払った。
その後、原告は、原告の都合で、同物件の買受けを断念したが、宮崎は、右五〇〇〇万円のうち三〇〇〇万円は、前払いの報酬であり、原告の都合で買受けを断念した以上返還する必要はないとして返還しない。右三〇〇〇万円は、本件事業年度の損金である。
2 原告は、浪速区の物件の買受け及び転売の仲介手数料として、被告が認めている株式会社小田政経研究所に対するもののほか、日通エンジニアリング株式会社に対して一五〇〇万円、コスモ産業こと田中悟に対して二〇〇〇万円を支払った、これらは、本件事業年度の損金であるとともに、土地重課税の対象である浪速区の物件の譲渡における販売費となる。
3 原告代表者辻井巌(以下「辻井」という。)所有の大分県別府市大字南立石一三四番山林等の土地及び建物(以下「別府の物件」という。)について、大分地方裁判所において、競売開始決定がなされ、競売手続が進行していた。そこで、原告は、原田洋満(以下「原田」という。)に対し、同物件の買受けを依頼し、原田は、昭和五八年四月一八日に競買保証金として五〇〇〇万円を納付し、競落したが、代金支払期限までに残代金の調達ができず、右保証金は、裁判所に没収された。原田は、原告の依頼により、昭和五八年一〇月二四日、妻トシ子を買受申出人として、競買保証金四五〇五万円二〇〇〇円を納付し、再び右物件を競落したが、代金支払期限までに残代金の調達ができず、右保証金は、裁判所に没収された。原告は、昭和六二年四月、原田に対し、右没収された保証金合計九五〇五万二〇〇〇円の支払義務を認め、支払った。これは、本件事業年度の損金である。
四 被告は右三1については、原告主張の金員は、本件事業年度の損金(法人税法二二条三項)にはあたらない、右三2については、原告主張の三五〇〇万円の支払は存しない、右三8については、原告主張の競落の依頼は、辻井と原田との間の取引であって、原告には関係なく、原告主張の原田に対する支払は存しないと主張し、原告の主張をいずれも争っている。
第三判断
一 右第二の三1(宮崎への支払)について
1 甲第五、第六、第九、第一〇号証、乙第一号証、第三号証の一ないし四、原告代表者尋問の結果、証人山下正直の証言及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。
(一) 原告は、東区の物件を、昭和六二年四月三日に、代金三億円で売却したが、その益金に対する課税について、措置法六五条の七《特定の資産の買換えの場合の課税の特例》の適用を受けたいと考え、買換資産を探していたところ、宮崎が堺市の物件が売りに出ているとの情報を持ってきたので、調査の結果、同物件の買受け交渉を宮崎に依頼し、同年五月一〇日、その費用として五〇〇〇万円を宮崎に預けた。
(二) 宮崎からは、昭和六三年一月ころ、代金一億七五〇〇万円で堺市の物件を買い受ける話がまとまったと言ってきたので、原告は、税理士に相談したところ、措置法六五条の七の適用を受けられないおそれがあることが判明した。そこで、原告では、堺市の物件を買い受けることを断念し、その旨宮崎に伝えた。
(三) 宮崎は、多額の経費を使ったとし、原告の都合で取引を中止したのであるから、右五〇〇〇万円は返還しない旨主張した。これに対し、原告は、全額返還するよう主張し、昭和六三年一二月一七日、宮崎に対し、右五〇〇〇万円の返還を求める内容証明郵便を送付した。宮崎は、右五〇〇〇万円のうち二〇〇〇万円のみを返還すると回答したが、原告は、同月二四日、再度、右五〇〇〇万円の返還を求める内容証明郵便を送付した。しかし、宮崎は、平成元年二月になって二〇〇〇万円を原告に返還したのみであり、原告は、残額の三〇〇〇万円については返還を受けていない。
(四) 原告は、本件事業年度の決算において、堺市の物件に関する右費用は、仮払金として処理している。
2 法人税法二二条三項は、損金の額に算入すべきものについて規定しているところ、右1の原告が返還を受けられなかった三〇〇〇万円は、次のとおり同項各号に該当しない。
(一) 右三〇〇〇万円は、本件事業年度の収益に係る原価の額(同項一号)にあたらないことは明らかである。
(二) 右1認定の事実からすると、右三〇〇〇万円は、原告が堺市の物件買受けの費用として、宮崎に預けた金員であるが、本件事業年度終了の時点では、いまだその返還に関して交渉中であったのであるから、本件事業年度終了の日までに債務は確定しておらず、前号に掲げるもの以外の本件事業年度の費用(本件事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く。)の額(同項二号)にもあたらない。
(三) 右(二)で述べたところからすると、右三〇〇〇万円は、本件事業年度において具体的に発生した損失であるということはできないのであるから、本件事業年度の損失で資本等取引以外の取引に係るもの(同項三号)にもあたらない。
3 以上の次第で、右三〇〇〇万円は本件事業年度の損金ではない。
二 右第二の三2(浪速区の物件に関する支払)について
1 原告代表者は、代表者尋問及び陳述書(甲第五号証)において、次のとおり供述し、証人山下正直は、これに沿う証言をするほか、甲第一〇号証(同人の陳述書)にも同旨の供述記載がある。
(一) 日通エンジニアリング株式会社の代表者である山内永吾は、昭和六二年五月ころ、原告に、有限会社たつみ所有の浪速区の物件が売りに出ているとの話を持ってきた。そこで、原告において調査したところ、転売することができる物件であると思われたので、買受け交渉に入ることにしたが、辻井は、有限会社たつみの代表者と全く面識がなかったので、同代表者の知合である川嶋康に協力を求め、川嶋とともに交渉したところ、買い受けることができる見通しがついた。なお、辻井は、川嶋は田中悟が経営していたコスモ産業に勤務している者であると聞いていたのである。
(二) 原告は、株式会社小田政治経済研究所の仲介によって、浪速区の物件を、たかしよう株式会社に売却することができるようになった。そこで、原告は、昭和六二年七月に、浪速区の物件を有限会社たつみから買い受けて、たかしよう株式会社に売却した。
(三) 右売買で得られた利益約一億円のうちから、日通エンジニアリング株式会社に一五〇〇万円、コスモ産業(田中悟)に二〇〇〇万円、株式会社小田政治経済研究所に三五〇〇万円を、それぞれ配分するとの話が決まった。そして、原告代表者辻井は、昭和六二年七月一四日、現金一五〇〇万円を日通エンジニアング株式会社代表者山内永吾に支払い、領収書(甲第一号証)を受け取り、また、現金二〇〇〇万円を田中悟及び川嶋康に支払い、領収書(甲第二号証)を受け取った。
(四) たかしよう株式会社への売却については、第三者への転売をあっせんし、転売できなければ、買い戻す旨の特約があったので、右の各領収書には、買い戻した場合には、右の各金員は原告に返還する旨の記載をしてもらったが、その後、買い戻す必要がなくなったので、平成元年一月一八日、返済しない旨の記載(甲第一、第二号証)をしてもらった。
2 領収証(甲第二号証)記載のコスモ産業の住所は、大阪府八尾市西高安町四丁目七五-三であるが、乙第四、第五号証によると、コスモ産業田中悟が、右住所地所在の建物を賃借して入居したのは、昭和六二年一一月一五日であることが認められる。この事実からすると、右領収書(甲第二号証)が、右住所に入居前の昭和六二年七月一四日に作成されることはあり得ないといわざるを得ず、右領収書(甲第二号証)の作成経緯に関する右1の供述を信用することは到底できない。そして、このように最も重要な書証である領収書の作成経緯に関する供述を信用することができない以上、コスモ産業に対する支払はもとより、これと同一の機会に行われた日通エンジニアリング株式会社に対する支払についても、右1の原告代表者及び証人山下正直の供述を信用することはできない。
3 証人山内永吾は、浪速区の物件を原告に紹介して、一五〇〇万円を受け取ったと、右1の供述に沿う証言をする。しかしながら、同証人は、(1)有限会社たつみとの交渉には関与していない、(2)同証人が原告と共同で浪速区の物件を買うという話はなかったと証言しており、原告代表者の、(1)同証人は有限会社たつみとの交渉に関与した、(2)同証人が原告に対し共同で浪速区の物件を買ってもうけようという話を持ってきたので、共同で買い受けることとしたとの供述とは明らかにくいちがっているうえ、一五〇〇万円という金額が決まった経緯についても、原告代表者の、関係者が一同に集まって決めたとの供述とは明らかに矛盾する証言をしている。さらに、同証人は、領収書(甲第一号証)を日通エンジニアリング株式会社名義で作成しておきながら、一五〇〇万円を同社に入金していないとも証言している。これらに、同証人が原告の取締役であること(これは原告代表者供述により認められる。)をも考え併せると、同証人の証言の信用性は低く、右1の原告代表者及び証人山下正直の供述を裏づけるものということはできない。
4 証人川嶋康は、浪速区の物件の所有者を原告に紹介して、二〇〇〇万円を受け取ったと、右1の供述に沿う証言をする。しかしながら、同証人は、有限会社たつみの代表者を紹介したのみで、それ以上に有限会社たつみ及びたかしよう株式会社との交渉には関与していないと証言しており、原告代表者の、(1)同証人は原告とともに有限会社たつみへ何回も交渉に行った、(2)同証人は、たかしよう株式会社へも交渉に行ったとの供述とは明らかにくいちがっている。また、同証人は、領収書(甲第二号証)の名義がコスモ産業田中悟になっている理由について、田中悟には三〇〇万円の借金があったので、二〇〇〇万円全額を田中悟に渡したと証言しているが、どうして三〇〇万円しか借金がないにもかかわらず、二〇〇〇万円全額を田中悟に渡さなければならないのか、その理由についての合理的な説明もない。これらのことからすると、同証人の証言も信用性は低く、右1の原告代表者及び証人山下正直の供述を裏づけるものということはできない。
5 以上のほか、原告主張の浪速区の物件に関する支払を証する証拠はないのであるから、右支払があったとして、これを損金と認定することはできない。
三 右第二の三3(別府の物件に関する支払)について。
1 甲第三、第四号証、乙第六号証の一、二、第一四、第一五号証の各一、二、第一六号証、原告代表者尋問の結果、証人山下正直の証言及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。
(一) 辻井は、別府の物件を所有していたところ、同物件について、昭和四九年に、大分地方裁判所において、辻井を債務者にとして競売開始決定がなされ、競売手続が進行していた。
(二) 原田は、昭和五八年四月一八日、五〇〇〇万円の競買保証金を納付したうえ、別府の物件を競落した。辻井は、同物件を買い戻すことを希望し、原田が競落した残代金を納付することを約束したが、代金支払期限までに残代金を納付せず、原田は、右五〇〇〇万円の返還を受けることができなかった。
(三) 原田の妻原田トシ子は、昭和五八年一〇月二四日、四五〇五万円二〇〇〇円の競買保証金を納付したうえ、右物件を競落した。辻井は、同年一一月七日、原田トシ子との間で、別府の物件を、代金五億八五〇〇万円で買い受ける旨の売買契約を締結し、原田トシ子が競落した残代金を納付することを約したが、辻井は、代金支払期限までに残代金を納付せず、原田トシ子は、右四五〇五万二〇〇〇円の返還を受けることができなかった。
2 原告代表者は、代表者尋問及び陳述書(甲第五号証)において、原告は、原田と共同で事業をするために、原田に別府の物件の競落を依頼し、原田は、自ら及び妻の名で、競落したが、残代金の準備ができず、保証金を没収されたと供述し、証人山下正直は、これに沿う証言するほか、甲第一〇号証(同人の陳述書)にも同旨の供述記載がある。しかし、これらの供述のうち、右1の認定に反する部分は、乙第六号証の一、二に照らし、信用することができない。そして、右五〇〇〇万円と四五〇〇万円計九五〇〇万円が原告から原田に支払われたとの点についても(原告代表者及び証人山下正直は原田トシ子の納付分四五〇五万二〇〇〇円のうち五万二〇〇〇円は免除されたと供述している。)もし真実原告から右支払いがなされているとすれば、原告は株式会社であるうえ、右支出金額は大金であって、その経理処理の必要上からも、支払いの相手方に領収書等の交付を求めるのが通常の扱いであると思われるにもかかわらず、少なくとも本件では原告からこれらの書面は証拠として提出されておらず(原告代表者及び証人山下正直は、原田らが大分地方裁判所に納付した金員は裏金であったため、原告らが同裁判所に納付した際に交付を受けた領収書はもらったが、原告と原田との間の右支払いに関する合意文書は作成しなかったと供述するが、原告が本件において提出している右の各領収書(甲第三、第四号証)のうち甲第四号証は、乙第一五号証の一と対照すると、別訴(当庁昭和六一年(ワ)第七三二四号事件)で原田から提出されたものをコピーしたものにすぎず、原田からもらった領収書そのものが証拠として提出されているものではないし、甲第三号証についても、原告代表者及び山下正直は、原田からもらった領収書を証拠として提出したとの趣旨の供述をするが、右認定の甲第四号証が提出された経緯からすると、これを直ちに信用することはできず、原田からもらった領収書が証拠として提出されていると認めるに足りる的確な証拠はないといわざるを得ない。)、また、右支払いに係る本件係争年度の確定申告にあたっても、別府の物件に関するものとしては、原告から原田トシ子に対し、同物件の競落入札金として四五〇〇万円が貸し付けられたとの記載が右申告書にあるのみで、原告が主張するような金額の支出は申告されていない。さらに、乙第一八号証によると、本訴に先立つ異議申立てにおいて、原告は、別府の物件の競買保証金を昭和六二年に二回に分けて原田に支払ったというような主張は全くしていない。なお、証人山下正直が原告の現金出納帳であると証言する甲第八号証には、昭和六二年四月七日の欄に、「原田敏子別府入札金四五〇〇〇〇〇〇」の記載があるところ、同証人は、右甲号証の原本の保管場所は不明であるなどとあいまいな証言をしており、また、右記載の金員は仮払金として処理したということであり、右甲号証をもって直ちに原告の主張を支持するに足りる証拠ということはできない。また、原告は、原告の主張を支持する証拠として、原告昭和五九年六月三〇日、別府の物件の造成工事等を株式会社熊谷組広島支店に九〇〇〇万円で委託した旨記載のある甲第七号証を提出する。しかし、乙第六号証の一、二によれば、右書証は別府の物件を開発するについての事業資金を調達するために必要として、原告が原田に持参したものであるというのであるが、右契約が権限ある者により締結され、また、右文書も権限ある者により作成されたものであるばかりでなく、右物件が競売されているのをみても分かるとおり、当時、原告(辻井)は経済的に行き詰まっていたのであって、そもそも右契約内容も実現する可能性があったものであるかも極めて疑問といわざるを得ないのであり(現にこれは実現していない。)、右書証をもって、原告の主張を支持するに足りるものと認めることもできない。
3 したがって、原告主張の原告の原田に対する支払を認めることはできず、右支払があったとして、これを損金と認定することはできない。
第四結論
よって、原告の請求は、理由がない。
(裁判長裁判官 福富昌昭 裁判官 森義之 裁判官 氏木厚司)
別紙1
確定申告書(損益計算書)
<省略>
確定申告書(所得金額)
<省略>
別紙2-1
更正処分の内訳
<省略>
別紙2-2
更正処分(損益計算書)
<省略>
更正処分(所得金額)
<省略>
別紙3
確定申告書(支払手数料、元帳記載分)
<省略>
別紙4
土地重課税の内訳
<省略>
別紙5
課税の経緯
<省略>